Idea4U_vol75
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- 3 -——実際のところ、河津さんたちはどのように困難を乗り越えたのでしょう。特に映像完成後、公開までの準備に非常に苦労されたとのことでしたので、詳しくお聞かせください。河津 プロジェクトを開始したタイミングで、他社がAIで生成して公開した動画が炎上する事例がいくつか発生しました。キャラクターの設定に違和感があるとか、映像が不自然に見えるといった理由です。そのため当行としては、銀行としての信用を毀損することのないよう生成AIの扱いには細心の注意を払う必要がありました。しかし関連する法の解釈やガイドラインが完全には整備されておらず、何をクリアすればいいかという基準が明確でなかったため、その検証プロセスをゼロから整理することが、最初の苦労 でした。——検証プロセスはどう整理したの ですか。河津 生成の際のプロンプト(指示)を保存し、そこに問題がなかったかをチェックするのが一つ、それと映像が著作権を侵害することがないように、既存の画像と類似したものが生成された場合は除外することを決めました。映像を一コマずつに分解して、そのすべてをネット検索で出てくる画像と類似性がないかどうか検証するのですが、そのために専用の検証システムも開発しました。 また、リスクチェックという視点では、こうした「類似性リスク 」のチェックのほか、炎上を回避するために協力会社の手も借りて、過去に公開された映像の炎上事例と、称賛された事例をできる限りピックアップして要因を分析し、「炎上リスク 」を排除することも徹底しました。——問題が起きてから手を打つのでは遅いということですね。AI生成動画の公開に際して慎重論が多い社内で、公開の同意を得るにはどういった部門との調整が必要でしたか。河津 広報や法務、そしてシステムを 管理する部門などです。著作権法上の問題がないか、生成された内容に対してのリスクやレピュテーション (評判・安全性評価)、情報の扱い方が適切かどうかを見てもらい、最終的に動画の公開全般について判断を仰ぎ ました。——多くの部門と協議する中で、特に留意した点はありますか。河津 どんな会議でも、最初に生成AIの映像を公開した場合、SMBCにどんなベネフィットがもたらされるかを伝えるようにしました。ベネフィットが明確であれば、どの部署や役割の人でも、OKかNGか判断に迷う局面で、どう工夫すれば公開が可能になるのだろうと前向きに考えやすくなり、物事が前に進んでいきます。些細なことかもしれませんが、新規事業を起こすときにも重要な姿勢だと感じました。——SMBCの性質上、難航した、あるいはSMBCだからこそ可能になったと思うことはありますか。河津 やはり信用を何より重んじる金融機関として、守りの姿勢を優先しようという考え方は根強くあります。そのディフェンスを両立させつつ動画を公開できたのは、社内外ともにエポックメイキングな出来事だったと思っています。 それと、私が所属するデジタル戦略部は人材の多様性に富んでおり、異業種からのキャリア採用者がどんどん入ってきています。だからこそSMBCがどんな会社かを客観的に見て分析し、それを動画の表現に反映させることができたと言えます。そうした客観性と、多様な人材がバランスをとりながら目標達成のためのチーム構築ができるのは、SMBCならではの強みではないかと。——河津さんはじめプロジェクトメンバー 3名も異業種からの転職者ですね。河津 そうです。異業種経験者としての視点を交え、SMBCにどういう歴史があって今があるかという点を掘り下げて、その上で新しいことにチャレンジするには何が大切なのかを体感できたのは大きな成果だったと思います。 また、部内に弁護士資格を持つ社員がいるので、今回の動画生成プロジェクトについて早い段階で相談することができました。私たちの部門のミッションである新規事業の創出に関しては、法規制をクリアできているかという点が非常に重要なので、このようなメンバーが在籍しているのですが、今回の映像制作に関しても、いつでも相談できる相手として、クリエイティブの視点も持ち合わせた法律の専門家がいたのは心強かったです。——プロジェクト推進の当事者として、 生成AIを用いたコンテンツ制作・公開を思案中の他企業に何かアドバイスできることがあればお願いします。河津 専門分野以外だからといって外注先に丸投げするというつくり方は、あまり勧められないですね。プロが全部つくってくれるのであれば自分たちで思考する必要はなく、形はできても自分たち自身の資産としては何も残らないので。 今回の映像では、制作に入る前のコンセプトづくりを生成AIを使って自分たちで行いました。生成AIを相手に、壁打ちするように対話を繰り返し「共創 」で思考を深める重要性

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